ビジネス文書で頻繁に使われる謙譲語「いたす/致す」。
この言葉は「する」の謙譲表現として日常的に使用されますが、送り仮名をつけるべきか否かで迷う方も多いでしょう。
「致します」と漢字のみで表記すべきか、「いたします」とひらがなで書くべきか。
本記事では、「いたす/致す」の送り仮名に関する正しい表記ルールと、ビジネスシーンでの適切な使い方を解説します。
日本語の専門家による調査と実例に基づき、あなたのビジネス文書の品質を高める知識をお届けします。
この記事でわかること
- 「いたす/致す」の送り仮名に関する正式なルールと根拠
- ビジネスシーンでの「いたす/致す」の適切な使い分け方
- 業界や文書の種類による表記の傾向と選択のポイント
- 「いたす/致す」を含む文例と敬語表現の実践的なテンプレート
- 送り仮名の間違いを防ぐための効果的なチェック方法
この記事を読めば、「いたす/致す」の送り仮名に関する迷いを解消し、相手に好印象を与えるビジネス文書が作成できるようになります。
「いたす/致す」の送り仮名の基本ルール
「いたす/致す」の送り仮名については、文化庁が定める「送り仮名の付け方」の公式ルールがあります。
この基本ルールを理解することで、適切な表記ができるようになります。
送り仮名の公式ルール
「いたす/致す」は、文化庁が定める送り仮名の付け方によれば、基本的に「いたす」と送り仮名をつけるのが正式な表記とされています。
これは「動詞は活用語尾を送る」という基本原則に基づいています。
「致す」と「いたす」の正式表記
文化庁の「送り仮名の付け方」の通則6により、「いたす」は送り仮名を省略せず「いたす」と書くのが本来の正式表記です。
【参照記事】【文化庁:公式サイト】送り仮名の付け方 複合の語 通則6
しかし、同資料の許容規則によれば、慣用的に「致す」という表記も広く使われており、許容されています。
間違いやすいポイント
多くの人が間違えるのは、「致します」と「いたします」のどちらが正しいかという点です。
正式ルールでは「いたします」が基本ですが、ビジネス文書では「致します」という表記も広く使われており、間違いではありません。
ただし、社内ルールや業界慣習に合わせることが重要です。
ビジネスシーンでの「いたす/致す」の使い分け
ビジネスシーンでは、「いたす/致す」の表記選択に一定の傾向があります。
状況に応じた適切な表記を選ぶことで、プロフェッショナルな印象を与えることができます。
フォーマルな文書での表記
契約書や公式文書など、フォーマル度の高い文書では、「致す」という漢字表記が好まれる傾向があります。
これは漢字表記が持つ格式高さや厳粛さが、文書の性質に合致するためです。
例文: 「本契約に基づき、弊社は下記の通り対応を致します。」
日常的なビジネスコミュニケーションでの表記
社内メールや比較的カジュアルなビジネスコミュニケーションでは、「いたす」というひらがな表記も広く使われています。
特に最近では、読みやすさを重視してひらがな表記を採用する企業も増えています。
例文: 「ご依頼いただいた資料は明日中に送付いたします。」
間違いやすいポイント
「致す」と「いたす」の混在使用は、文書の統一感を損なうため避けるべきです。
同一文書内では、どちらかの表記に統一することがプロフェッショナルな文書作成の基本です。
送り仮名表記のケーススタディ
実際のビジネスシーンでは、企業や業界によって「いたす/致す」の表記傾向が異なります。
具体的なケースを見ながら、適切な選択について考えてみましょう。
企業の公式文書の傾向
大手企業のプレスリリースや公式文書を調査すると、総じて「致します」という漢字表記が多く見られます。
これは公式文書としての格式を重視する傾向があるためです。
例文: 「新サービスの提供を4月1日より開始致します。」(大手IT企業のプレスリリースより)
業種別の傾向分析
金融機関やコンサルティングファームなど、伝統的・保守的な業界では「致します」が好まれる一方、IT業界やスタートアップ企業では「いたします」を採用する傾向が見られます。
金融機関の例: 「お客様のご要望に沿った提案を致します。」
IT企業の例: 「最先端の技術でサポートいたします。」
間違いやすいポイント
社内文書と対外文書で表記ルールを変えている企業もあります。
自社のルールを確認せずに独自判断で表記を選ぶと、企業のブランドイメージの統一を損なう可能性があるため注意が必要です。
「いたす/致す」を用いた例文・テンプレート
「いたす/致す」を適切に使用した例文やテンプレートを紹介します。
状況別の正しい使い方を参考にしてください。
敬語表現での使用例
「いたす/致す」は「する」の謙譲語であり、さまざまな敬語表現で使われます。
以下に代表的な例を示します。
- 「お手伝いいたします」
- 「ご案内いたします」
- 「ご連絡いたします」
- 「お待ちいたしております」
- 「確認いたしました」
ビジネスシーン別テンプレート
【メール・依頼の返信】
ご依頼いただきありがとうございます。
内容を確認いたしました。ご要望に沿って対応いたします。
【謝罪の文面】
この度はご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。
今後このようなことがないよう、改善に努めてまいります。
間違いやすいポイント
「いたす/致す」は謙譲語であるため、自分の行動に対してのみ使用します。
相手の行動に対して使うと敬語の誤用となるので注意が必要です。
誤用例: 「部長がプレゼンをいたします。」(×)
正しい例: 「部長がプレゼンをいたします。」→「部長がプレゼンをされます。」(〇)
業界別の表記傾向と注意点
業界によって「いたす/致す」の表記傾向は異なります。
それぞれの業界での傾向と注意点を解説します。
保守的な業界の傾向
銀行、保険、法律関連など保守的な業界では、「致します」という漢字表記が好まれる傾向があります。
これらの業界では伝統的な表記を重視する文化があります。
法律事務所の例: 「法的助言を以下の通り致します。」
クリエイティブ業界の傾向
広告、デザイン、メディアなどのクリエイティブ業界では、「いたします」というひらがな表記が増えています。
読みやすさやモダンな印象を重視する傾向があります。
デザイン会社の例: 「デザイン案を3種類ご提案いたします。」
間違いやすいポイント
業界の慣習に合わせることは重要ですが、過度に硬い表現や古い表現にこだわりすぎると、時代にそぐわない印象を与えることがあります。
相手や状況に合わせた柔軟な対応が必要です。
送り仮名ミスを防ぐチェックポイント
送り仮名の誤りを防ぐためのチェックポイントを紹介します。
これらを参考に、ビジネス文書の品質を高めましょう。
文書内での表記統一
同じ文書内で「致します」と「いたします」が混在していないかチェックしましょう。
表記は必ず統一することが基本です。
チェックポイント
- 同一文書内で表記が統一されているか
- 会社のスタイルガイドに準拠しているか
- タイトルと本文で表記に一貫性があるか
文書校正ツールの活用
Microsoft WordやGoogle Docsなどの校正機能、または専用の校正ツールを活用して、送り仮名のチェックを行いましょう。
おすすめツール
- 「Microsoft Editor」(Word内蔵)
- 「Grammarly(日本語対応版)」
- 「日本語校正サポート」(ブラウザ拡張機能)
間違いやすいポイント
送り仮名のルールは単語によって異なるため、「いたす/致す」のルールを他の言葉に安易に適用すると誤りの原因となります。
例えば「行う」は「おこなう」と送るのが正式ですが、「行う」という表記も許容されています。
単語ごとに正しいルールを確認することが大切です。
まとめ:適切な送り仮名でプロフェッショナルな印象を
「いたす/致す」の送り仮名について、正式なルールと実際のビジネスシーンでの使い方について解説しました。
ビジネス文書における「いたす/致す」の送り仮名は、公式には「いたす」が正式とされていますが、ビジネスシーンでは「致す」も広く使われており、どちらも間違いではありません。
重要なのは、文書の性質や相手、自社のルールに合わせて適切に選択し、文書内で統一することです。
送り仮名の正しい使い方を身につけることで、ビジネス文書の品質が向上し、プロフェッショナルな印象を与えることができます。
日々の業務で「いたす/致す」を使う際は、この記事で紹介したポイントを参考に、適切な表記を心がけてください。
よくある質問(FAQ)
Q1: 「いたす」と「致す」のどちらが正式な表記なのですか?
A1: 文化庁の「送り仮名の付け方」によれば、正式には「いたす」と送り仮名をつける表記が基本です。
ただし、「致す」という表記も許容規則の範囲内であり、ビジネスシーンでは広く使われています。
Q2: 会社内で表記ルールが定められていない場合、どちらを使うべきですか?
A2: 会社のスタイルガイドがない場合は、業界の傾向や文書の性質に合わせて選ぶとよいでしょう。
公式文書やフォーマルな場面では「致します」、一般的なビジネスコミュニケーションでは「いたします」を使うケースが多いです。
どちらを選んでも、文書内で統一することが重要です。
Q3: 「いたし兼ねる」「いたしかねる」のような複合表現はどう表記すべきですか?
A3: 複合表現の場合も基本的なルールは同じで、「いたしかねる」と送り仮名をつけるのが正式ですが、「致しかねる」という表記も許容されています。
前後の表現との統一感を考慮して選択しましょう。
Q4: 文化庁の送り仮名のルールは強制なのですか?
A4: 文化庁の「送り仮名の付け方」は法的強制力はなく、一般的な指針として示されたものです。
多くの企業や出版社はこのルールを参考にしながら、独自のスタイルガイドを定めています。
Q5: 他によく間違える送り仮名の例はありますか?
A5: 「行う(おこなう/行う)」「打ち合わせ(打合せ/打ち合わせ)」「申し込み(申込/申し込み)」「取り扱い(取扱/取り扱い)」などが、ビジネスシーンでよく間違えられる送り仮名の例です。
これらも「いたす/致す」と同様、文書内での統一が重要です。