問題が発生したとき、「手を打つ」と「対策を講じる」という表現をどのように使い分けていますか?
似たような意味合いを持ちながらも、ニュアンスや適切な使用場面には違いがあります。
この記事では、ビジネスパーソンが知っておくべき「手を打つ」と「対策を講じる」の違いと効果的な使い分け方を解説します。
この記事でわかること
- 「手を打つ」と「対策を講じる」の基本的な意味と違い
- それぞれの表現が適している具体的なビジネスシーン
- 状況別のメール例文とテンプレート
- 上司や取引先への報告時に使うべき表現のポイント
- よくある間違いと効果的な言い換え表現
ビジネスシーンでの表現力を高め、状況に応じた適切な言葉選びができるようになりましょう。
「手を打つ」と「対策を講じる」の基本的な意味と違い
「手を打つ」と「対策を講じる」は、問題解決のための行動を表す表現ですが、それぞれ異なる特徴があります。
まずは基本的な意味と違いを理解しましょう。
「手を打つ」の基本的な意味
「手を打つ」は、何らかの問題や状況に対して、迅速に行動を起こすことを意味します。
この表現には、以下のような特徴があります。
- 迅速性と即応性: 問題に対して素早く対応するニュアンスがある
- 臨機応変さ: 状況に応じた柔軟な対応を示唆する
- 一時的な対応: 恒久的な解決よりも、まずは応急処置的な意味合いが強い
具体例
「売上が急落したため、すぐに値引きキャンペーンという手を打った」
「システム障害に対して、緊急の手を打つ必要がある」
間違いやすいポイント
「手を打つ」は計画的・体系的な対応というよりも、状況に応じた素早い判断や行動を表すため、長期的な戦略を表現する場合には適していません。
「対策を講じる」の基本的な意味
「対策を講じる」は、問題に対して計画的・体系的に施策を実施することを意味します。
この表現には、以下のような特徴があります。
- 計画性と体系性: 十分に検討された対応策を実行するニュアンス
- 公式性と正式性: 組織的・制度的な対応を示唆する
- 恒久的な解決志向: 問題の根本的解決を目指す意味合いが強い
具体例
「情報漏洩を防ぐため、全社的なセキュリティ対策を講じた」
「コンプライアンス違反を防止するための対策を講じる必要がある」
間違いやすいポイント
「対策を講じる」は即時性よりも計画性を重視する表現であるため、緊急の対応が必要な場面では不適切に感じられることがあります。
ビジネスシーンでの適切な使い分け方
ビジネスシーンでは、状況や目的に応じて「手を打つ」と「対策を講じる」を適切に使い分けることが重要です。
それぞれの表現が適している具体的なシーンを見ていきましょう。
「手を打つ」が適しているビジネスシーン
「手を打つ」は、以下のようなシーンで効果的に使用できます。
- 緊急対応が必要な場合
- システム障害やトラブル発生時
- 納期遅延のリスクが高まった時
- 突発的なクレーム対応
- 競合対策として迅速な行動が必要な場合
- 競合他社の新製品発表への対抗策
- 市場の急激な変化への対応
具体例
「競合他社の値下げに対して、次の一手を打つ必要があります」
「トラブルを未然に防ぐため、事前に手を打っておきました」
間違いやすいポイント
公式文書や正式な報告書では、「手を打つ」という表現が軽く感じられることがあるため、場面に応じた言葉選びが必要です。
「対策を講じる」が適しているビジネスシーン
「対策を講じる」は、以下のようなシーンで効果的に使用できます。
- 組織的・体系的な対応が必要な場合
- 全社的なリスク管理
- コンプライアンス対応
- 品質管理システムの改善
- 公式性・正式性が求められる場面
- 株主総会や取締役会での報告
- 監査対応や行政機関への報告
- プレスリリースや公式声明
具体例
「個人情報保護のため、厳格なセキュリティ対策を講じております」
「再発防止のため、全社的な教育と監査体制の強化という対策を講じました」
間違いやすいポイント
迅速な対応が求められる緊急事態では、「対策を講じる」という表現が遅延を示唆すると誤解されることがあります。
すぐに使えるシーン別メール例文・テンプレート
実際のビジネスシーンですぐに活用できるメール例文とテンプレートを紹介します。
状況に応じて「手を打つ」と「対策を講じる」を適切に使い分けましょう。
クレーム対応の例文
敬語表現(対策を講じる)
件名: 【ご報告】○○に関するご指摘への対応について
○○様
平素より格別のお引き立てを賜り、誠にありがとうございます。
先日ご指摘いただきました○○の件につきまして、弊社では以下の対策を講じましたのでご報告申し上げます。
1. 社内マニュアルの改訂と周知徹底
2. 担当者への追加研修の実施
3. チェック体制の強化による品質管理の徹底
今後このような事態が再発しないよう、全社を挙げて取り組んでまいります。
何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。
ビジネスシーン別(手を打つ)
件名: 【緊急報告】システム障害への対応状況
プロジェクトメンバー各位
本日10時頃から発生しているシステム障害について報告します。
現在、以下の手を打っています。
1. バックアップサーバーへの切り替え(完了)
2. 原因調査チームの編成(進行中)
3. 顧客への状況説明(対応中)
復旧見込みは本日15時頃を予定しています。
進捗があり次第、随時報告します。
問題予防の例文
敬語表現(対策を講じる)
件名: 【お知らせ】年末繁忙期に向けた対応体制について
関係者各位
年末の繁忙期に向けて、以下の対策を講じることといたしましたので、お知らせいたします。
1. 12月1日~31日まで対応スタッフを30%増員
2. サポート時間を9:00~20:00に延長
3. 緊急対応チームの24時間待機体制の構築
お客様へのサービス品質維持に努めてまいりますので、ご理解とご協力をお願いいたします。
ビジネスシーン別(手を打つ)
件名: 【共有】来週の大型商談に向けた準備について
営業部各位
来週の○○社との大型商談に向けて、以下の手を打ちました。
1. 競合情報の最新分析資料を準備
2. 技術部門からのサポート体制を確保
3. 想定Q&A集の更新と共有
最終打ち合わせを明日15時から会議室Aで行います。
全員の参加をお願いします。
上司・取引先への報告での効果的な表現法
上司や取引先への報告では、相手の立場や報告内容に応じて適切な表現を選ぶことが重要です。
効果的な報告の仕方を解説します。
上司への報告での表現法
上司への報告では、状況の緊急性や公式性に応じて使い分けることが効果的です。
- 緊急報告の場合(手を打つ)
- 「トラブルに対して、すでに次の手を打ちました」
- 「売上回復のため、即効性のある手を打つ必要があります」
- 定例報告や公式な場面(対策を講じる)
- 「長期的な品質向上のため、以下の対策を講じました」
- 「コスト削減に向けて、全部門で対策を講じています」
具体例
「顧客からのクレームに対しては、まず初動として謝罪と原因調査という手を打ち、その後、再発防止のための恒久的な対策を講じました」
間違いやすいポイント
同じ報告内でも、初動対応なら「手を打つ」、恒久対応なら「対策を講じる」というように使い分けると、時系列や対応の性質を明確に伝えられます。
取引先への報告での表現法
取引先への報告では、より丁寧で公式性の高い表現が求められることが多いです。
- 迅速な対応の報告(手を打つの丁寧表現)
- 「早急な対応として、以下の手を打たせていただきました」
- 「問題解決のための第一手として、次のことを実施いたしました」
- 正式な対応の報告(対策を講じる)
- 「再発防止のため、全社的に以下の対策を講じております」
- 「品質管理体制強化のため、以下の対策を講じることを決定いたしました」
具体例
「納期遅延のリスクを認識後、直ちに生産体制の見直しという手を打たせていただき、あわせて今後の安定供給のため、長期的な供給体制の強化という対策を講じることといたしました」
間違いやすいポイント
取引先への報告では「手を打つ」だけでは軽い印象を与えることがあるため、「対策を講じる」という表現も適切に組み合わせることが重要です。
言葉のニュアンスと印象の違い
「手を打つ」と「対策を講じる」は、使用する場面によって相手に与える印象が異なります。
言葉のニュアンスと印象の違いを理解し、効果的に活用しましょう。
「手を打つ」のニュアンスと印象
「手を打つ」は、以下のようなニュアンスと印象を持ちます。
- 迅速性と機動性のアピール
- 素早い行動力と決断力を示す
- 問題に対して積極的に取り組む姿勢を感じさせる
- 柔軟性と臨機応変さの強調
- 状況に応じた対応ができる柔軟性を示す
- マネジメント能力の高さを印象づける
具体例
「予算削減の状況下でも、効果的な手を打ち続けた結果、目標達成できました」
間違いやすいポイント
公式性を重視する場面や、慎重さが求められる状況では、「手を打つ」という表現が軽率に映ることがあります。
「対策を講じる」のニュアンスと印象
「対策を講じる」は、以下のようなニュアンスと印象を持ちます。
- 計画性と体系性のアピール
- 十分な検討と準備に基づいた行動を示す
- 組織的な取り組みを感じさせる
- 信頼性と安定性の強調
- 問題の根本解決を目指す姿勢を示す
- 長期的な視点と戦略性を印象づける
具体例
「お客様の個人情報保護のため、厳格なセキュリティ対策を講じており、安心してご利用いただけます」
間違いやすいポイント
緊急性が求められる状況では、「対策を講じる」という表現が慎重すぎる印象や、対応の遅さを示唆すると誤解されることがあります。
よくある間違いと注意点
「手を打つ」と「対策を講じる」の使用において、よくある間違いと注意すべきポイントを紹介します。
適切な表現を選ぶための参考にしてください。
使用場面の誤り
状況にそぐわない表現を使うことで、意図とは異なる印象を与えてしまう場合があります。
- 緊急対応なのに「対策を講じる」を使う誤り
- 誤:「システムがダウンしているため、対策を講じていきます」
- 正:「システムがダウンしているため、直ちに手を打ちます」
- 公式文書で「手を打つ」を使う誤り
- 誤:「個人情報保護のため、様々な手を打っています」
- 正:「個人情報保護のため、厳格な対策を講じています」
具体例
会議での発言「この問題は経営に関わる重大事項です。今すぐに手を打ちましょう」→ 議事録での記載「この問題は経営に関わる重大事項であるため、早急に適切な対策を講じることとなった」
間違いやすいポイント
口頭でのコミュニケーションと文書での表現では、適切な言葉遣いが異なる場合があります。
特に公式文書では「対策を講じる」のほうが適していることが多いです。
表現の混同
「手を打つ」と「対策を講じる」の特性を混同して使用することで、文脈が不自然になることがあります。
- 「手を打つ」と「対策」を組み合わせる誤り
- 誤:「長期的な対策の手を打ちました」
- 正:「長期的な対策を講じました」または「即効性のある手を打ちました」
- 「講じる」と「手」を組み合わせる誤り
- 誤:「緊急の手を講じました」
- 正:「緊急の手を打ちました」または「緊急の対策を講じました」
具体例
誤:「コンプライアンス違反を防止するための手を講じました」
正:「コンプライアンス違反を防止するための対策を講じました」
間違いやすいポイント
「手を打つ」と「対策を講じる」はそれぞれ一つのセットフレーズであり、相互に入れ替えて使うことはできません。
まとめ:状況に応じた適切な表現の選び方
「手を打つ」と「対策を講じる」の違いと使い分けについて、主なポイントをまとめます。
ビジネスシーンでの効果的なコミュニケーションのために、これらの表現を適切に活用しましょう。
使い分けの基本原則
- 「手を打つ」が適している場面
- 緊急対応や即時の行動が必要な場合
- 臨機応変な対応や一時的な措置を示す場合
- 実行力や迅速性をアピールしたい場合
- 「対策を講じる」が適している場面
- 計画的・体系的な対応を示す場合
- 公式文書や正式な報告で使用する場合
- 組織的な取り組みや恒久的な解決策を示す場合
効果的な使い分けのコツ
- コミュニケーションの状況を見極める
- 緊急性の高さ:高い → 「手を打つ」、低い → 「対策を講じる」
- 公式性の程度:高い → 「対策を講じる」、低い → 「手を打つ」
- 相手との関係性を考慮する
- 上司や取引先など公式な関係:「対策を講じる」を基本としつつ、緊急時には「手を打つ」も適宜使用
- 社内の同僚など近い関係:状況に応じて柔軟に使い分け
- 時系列で使い分ける
- 初動対応:「手を打つ」
- 恒久対策:「対策を講じる」
ビジネスパーソンとして、状況に応じた適切な表現を選ぶことで、より効果的なコミュニケーションが実現できます。
「手を打つ」と「対策を講じる」の違いを理解し、場面に応じて使い分けることで、ビジネスの現場での言葉の選択肢が広がるでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q1:「手を打つ」と「措置を講じる」の違いは何ですか?
A1:「手を打つ」は迅速かつ臨機応変な対応を示し、「措置を講じる」は「対策を講じる」と同様に計画的・公式的な対応を示します。
「措置」は「対策」よりもさらに公式的・法的なニュアンスが強く、行政機関や法的文書でよく使われる表現です。
Q2:英語では「手を打つ」と「対策を講じる」はどう表現しますか?
A2:「手を打つ」は “take immediate action” や “make a move” に近く、「対策を講じる」は “implement measures” や “take systematic measures” に相当します。
英語でも日本語と同様に、即時性と計画性の違いがあります。
Q3:「予防策を講じる」と「予防の手を打つ」はどちらが正しいですか?
A3:どちらも文法的には正しいですが、「予防」は計画的な性質を持つため、「予防策を講じる」のほうが自然です。
ただし、「早めに予防の手を打つ」のように、予防の即時性や先手を打つニュアンスを強調したい場合は「予防の手を打つ」も使われます。
Q4:社内文書では「手を打つ」と「対策を講じる」のどちらを使うべきですか?
A4:社内文書の公式性や目的によります。
日常的な報告やメールなら「手を打つ」も自然ですが、取締役会議事録や監査報告書など公式性の高い文書では「対策を講じる」のほうが適切です。
Q5:「手段を講じる」という表現は正しいですか?
A5:「手段を講じる」は一般的ではなく、「手段を講ずる」や「手段を取る」、あるいは「対策を講じる」と表現するのが自然です。
日本語の慣用表現として、「講じる」は主に「対策」「措置」などと組み合わせて使われます。