「本日はご説明させていただきます」「資料を送付させていただきました」「お電話させていただきました」…。
ビジネスシーンでは「させていただく」という表現が頻繁に使われていますが、実はその多くが過剰な敬語表現であることをご存知でしょうか。
「させていただく」は本来、相手から許可や恩恵を受けて行動する際に使う謙譲表現です。
しかし現代のビジネス文書やメールでは、単なる丁寧さの表現として乱用される傾向にあります。
本記事では、「させていただく」の正しい使い方と、シーンごとの適切な言い換え表現を解説します。
過剰敬語を避け、簡潔で分かりやすいビジネス日本語を身につけましょう。
この記事でわかること
- 「させていただく」が過剰使用される理由と問題点
- 「させていただく」の正しい使用場面と基本ルール
- ビジネスシーン別の適切な言い換え表現と例文
- メール・文書・会話での「させていただく」の適切な使い分け
- 相手に好印象を与える簡潔な敬語表現のコツ
ビジネスパーソンとして評価される日本語力を身につけるために、過剰敬語を見直し、適切な表現を習得しましょう。
「させていただく」過剰使用の実態と問題点
ビジネスシーンでは、丁寧に話そうとする意識から「させていただく」が過剰に使用される傾向があります。
まずはその実態と問題点を確認していきましょう。
現代ビジネスにおける過剰敬語の実態
「させていただく」の使用頻度は過去10年で約3倍に増加したというデータがあります。
ビジネスメールの分析によると、一般的なビジネスメール1通あたり平均2.7回も「させていただく」が使われているという調査結果もあります。
なぜこれほど多用されるようになったのでしょうか。
過剰使用の具体例
- 「資料を添付させていただきます」(単に添付している)
- 「ご連絡させていただきました」(単に連絡している)
- 「確認させていただきます」(単に確認する)
「させていただく」過剰使用の問題点
「させていただく」の過剰使用には、以下のような問題点があります。
- 文章が冗長になる:文字数が増え、読みにくくなる
- 本来の敬意が希薄化する:乱用により敬意表現としての価値が下がる
- 違和感を与える:特に敬語に詳しい相手には不自然さを感じさせる
- 主体性の欠如:「させていただく」の乱用は遠慮がちな印象を与える
間違いやすいポイント
「させていただく」を間違えて使う典型的なパターンは以下の通りです。
- 相手の許可や恩恵がない行為に使う:「会議に出席させていただきます」(義務で出席する場合)
- 自社の通常業務に使う:「商品を発送させていただきます」(単なる業務として発送する場合)
- 自分の意思決定に使う:「辞退させていただきます」(自分の判断で辞退する場合)
「させていただく」正しい使い方とルール
「させていただく」は本来、特定の条件下でのみ使用する表現です。
正しい使い方とルールを理解しましょう。
「させていただく」の基本的な意味
「させていただく」は「(相手に)〜させてもらう」という意味の謙譲表現です。
つまり、相手から許可や恩恵を受けて行動するという前提があります。
「させていただく」の構造
「する」→「させる」(使役)→「させていただく」(使役+恩恵)
正しい使用場面のルール
「させていただく」を使っても良い基準は以下の通りです。
- 相手の許可を得た行為:「お時間をいただき、説明させていただきます」
- 相手の恩恵による行為:「ご紹介いただいたおかげで、参加させていただけました」
- 相手に何らかの影響を与える行為:「お客様のご意見を参考にさせていただきます」
- 丁重にお願いする場面:「ご検討いただけると幸いです」の後に「明日までにご回答いただければと存じます」
具体例:正しい使用と誤った使用の比較
状況 | 誤った使用 | 正しい使用 |
---|---|---|
会議での発言 | 「意見を言わせていただきます」 | 「意見を申し上げます」 |
資料送付 | 「資料を送付させていただきます」 | 「資料をお送りします」 |
質問する | 「質問させていただきます」 | 「ご質問します」または「お伺いします」 |
断る | 「辞退させていただきます」 | 「辞退いたします」 |
間違いやすいポイント
「させていただく」を使うべきでない典型的な例
- 単なる通知・報告:「会議は10時からとさせていただきます」→「会議は10時からといたします」
- 自分の行動宣言:「私が担当させていただきます」→「私が担当いたします」
- 単なる事実の伝達:「資料を作成させていただきました」→「資料を作成いたしました」
ビジネスシーン別の言い換え表現と例文
「させていただく」の代わりになる表現を、具体的なビジネスシーンごとに紹介します。
メール・文書での言い換え表現
メールや文書で使える言い換え表現を状況別に紹介します。
連絡・通知の場面
- ×「ご連絡させていただきます」
- ○「ご連絡いたします」
- ○「お知らせいたします」
依頼の場面
- ×「お願いさせていただきます」
- ○「お願い申し上げます」
- ○「ご協力をお願いいたします」
確認・質問の場面
- ×「確認させていただきます」
- ○「確認いたします」
- ○「拝見いたします」
会話・電話での言い換え表現
話し言葉でも「させていただく」を適切に言い換えましょう。
説明の場面
- ×「ご説明させていただきます」
- ○「ご説明いたします」
- ○「ご説明申し上げます」
お詫びの場面
- ×「お詫びさせていただきます」
- ○「お詫び申し上げます」
- ○「心よりお詫び申し上げます」
提案の場面
- ×「ご提案させていただきます」
- ○「ご提案いたします」
- ○「ご提案申し上げます」
敬語表現の使い分け例
「させていただく」の代わりとなる各表現の強さを意識しましょう。
表現レベル | 言い換え表現 | 使用例 |
---|---|---|
最も丁寧 | 「〜申し上げます」 | 「ご説明申し上げます」「お願い申し上げます」 |
丁寧 | 「〜いたします」 | 「ご連絡いたします」「確認いたします」 |
標準 | 「〜します」 | 「説明します」「お送りします」 |
間違いやすいポイント
言い換えの際に注意すべきポイント
- 二重敬語にしない:「ご説明申し上げさせていただきます」→「ご説明申し上げます」
- 過剰な敬語を別の過剰敬語に置き換えない:「ご確認させていただきます」→「ご確認なさっていただけますと」
メールでの「させていただく」言い換え実践例
実際のビジネスメールでよく使われる「させていただく」の言い換え例を紹介します。
ビジネスメールの基本パターン修正例
件名と挨拶
- ×「お問い合わせいただきありがとうございます。ご回答させていただきます。」
- ○「お問い合わせいただきありがとうございます。ご回答いたします。」
依頼メール
- ×「資料のご確認をお願いさせていただきます。」
- ○「資料のご確認をお願い申し上げます。」
報告メール
- ×「プロジェクトの進捗をご報告させていただきます。」
- ○「プロジェクトの進捗をご報告いたします。」
社内・社外別メール例文
社内向けメール
件名:週報提出について
田中様
お疲れさまです。営業部の佐藤です。
先週の週報を添付いたします。
ご確認のほど、よろしくお願いいたします。
佐藤
社外向けメール
件名:御見積書の送付
株式会社〇〇
山田様
いつもお世話になっております。△△株式会社の佐藤でございます。
先日ご依頼いただきました製品の見積書を添付いたします。
ご不明点がございましたら、ご遠慮なくお問い合わせください。
何卒よろしくお願い申し上げます。
△△株式会社
営業部 佐藤太郎
間違いやすいポイント
メール作成時に注意すべきポイント
- 定型文の丸写しに注意:テンプレートの「させていただく」をそのまま使わない
- 同じメール内で表現を統一:「いたします」と「させていただく」を混在させない
- メールの長さと内容のバランス:簡潔な内容なのに過剰な敬語で長くしない
過剰敬語を避けるコミュニケーションのコツ
過剰な「させていただく」を含む敬語表現を避けるコツを紹介します。
シンプルで明確な表現を心がける
- 文の主語を明確にする:「弊社からご連絡いたします」
- 能動態を使う:「確認させていただきます」→「確認いたします」
- 簡潔な表現を選ぶ:「ご説明をさせていただくことになります」→「ご説明いたします」
相手と状況に合わせた敬語レベルの選択
- 社内/社外の区別:社内では「させていただく」よりもシンプルな表現を
- 関係性による使い分け:初対面の方には丁寧に、関係が築けている相手にはより自然な表現を
- 文書の種類による使い分け:正式文書と日常的なメールで敬語レベルを調整
効果的な敬語表現のポイント
- 「です・ます調」を基本とする
- 謙譲語と尊敬語を適切に使い分ける
- 文章全体の印象を意識する
- 自然な会話の流れを重視する
間違いやすいポイント
過剰敬語を避ける際に陥りやすい誤り
- カジュアルすぎる表現に振れすぎる:「させていただく」を避けるあまり、砕けた表現になる
- 一貫性のない敬語レベル:文書内で敬語レベルが揺れる
- 相手への配慮不足:簡潔さを重視するあまり、冷たい印象を与える
「させていただく」適切な使用例と文例
「させていただく」が適切に使える場面とその文例を紹介します。
「させていただく」が適切な場面
「させていただく」の使用が適切な状況は以下の通りです。
- 相手の許可を得て行動する場合
- 相手の厚意により実現する行動
- 相手に対する配慮を示す必要がある場合
- 控えめに申し出る場合
適切な使用例と文例
許可を得る場面
- 「お時間をいただき、新商品をご紹介させていただきます」
- 「会議室をお借りして、ミーティングをさせていただきます」
恩恵を受ける場面
- 「ご紹介いただき、商談に参加させていただきました」
- 「ご指導のおかげで、無事プロジェクトを完了させていただきました」
配慮を示す場面
- 「お客様のご要望に基づき、プランを変更させていただきます」
- 「ご不便をおかけしますが、システムメンテナンスをさせていただきます」
ビジネスシーン別敬語表現テンプレート
ビジネスシーン | 「させていただく」が適切な例 | 言い換えるべき例 |
---|---|---|
依頼時 | 「お忙しいところ恐縮ですが、ご検討させていただけますと幸いです」 | ×「依頼させていただきます」→○「お願い申し上げます」 |
案内時 | 「ご都合のよい日時をお知らせいただければ、ご訪問させていただきます」 | ×「ご案内させていただきます」→○「ご案内いたします」 |
提案時 | 「前回のご意見を踏まえて、再度提案させていただきます」 | ×「提案させていただきます」→○「ご提案いたします」 |
間違いやすいポイント
適切な使用の際にも注意すべき点
- 必要以上に「させていただく」を連発しない
- 本当に許可や恩恵の意味があるか考える
- 前後の文脈との整合性をチェックする
まとめ:過剰敬語を卒業して伝わる日本語へ
「させていただく」の使用に関する要点をまとめます。
ビジネス日本語において、「させていただく」の過剰使用は避けるべきです。
この表現は本来、相手からの許可や恩恵を受けて行動する際に使う謙譲表現であり、単なる丁寧さの表現として使うものではありません。
「させていただく」を適切に使うためのポイントは以下の通りです
- 相手の許可や恩恵が実際にある場合のみ使用する
- 単なる通知・報告・自分の行動宣言には使わない
- 代わりに「いたします」「申し上げます」などの表現を適切に使う
- 過剰な敬語表現を避け、シンプルで明確なコミュニケーションを心がける
過剰敬語を見直すことで、より簡潔で分かりやすいビジネスコミュニケーションが実現します。
状況に応じた適切な敬語表現を身につけ、相手に伝わりやすい日本語を使いましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1: 「させていただく」は完全に使わない方が良いのでしょうか?
A1: 完全に使わないというわけではありません。
相手からの許可や恩恵を受ける場面では適切に使用しましょう。
「お時間をいただき説明させていただきます」のように、実際に相手の許可や配慮が必要な場面では適切な表現です。
ただし、単なる丁寧さの表現として習慣的に使うことは避けるべきです。
Q2: 上司や先輩が「させていただく」を多用している場合、どう対応すべきですか?
A2: 目上の方の表現をいきなり指摘するのは避けましょう。
まずは自分自身が適切な敬語を使うよう心がけ、もし相談される機会があれば、「最近のビジネス文書では簡潔な表現が好まれる傾向にあります」といった形で情報提供するのが良いでしょう。
Q3: 「させていただく」以外に過剰使用されがちな敬語表現はありますか?
A3: 「〜になります」(「私が担当になります」→「私が担当です」)、「〜の方」(「資料の方を送ります」→「資料を送ります」)、「ご〜ご〜」といった二重敬語なども過剰使用されやすい表現です。
これらも適切な使い方を心がけましょう。
Q4: 外国人社員に「させていただく」の使い方をどう説明すれば良いでしょうか?
A4: 「相手から許可や恩恵をもらって行動するときに使う特別な表現」と説明し、具体的な使用例と使わない例を示すのが効果的です。
また、多くの日本人も過剰に使いがちな表現であり、基本的には「〜します」「〜いたします」で十分丁寧であることを伝えるとよいでしょう。
Q5: 業界や会社によって「させていただく」の使用頻度に違いはありますか?
A5: はい、業界や会社の文化によって使用頻度には違いがあります。
一般的に金融・保険業界や公的機関では形式的な敬語表現が多く使われる傾向にあります。
一方、IT・スタートアップ企業などではよりシンプルな表現が好まれる傾向があります。
所属する組織の文化に合わせつつも、過剰な使用は避けるのが良いでしょう。